中原昌也−汚れた花

公園の真ん中でひっそりと耐えて生きてきた 孤独な赤い一輪の花
誰も呼んでいないのにそこへ一人の盲人がやってきた
目が不自由なために彼の頼りなげで不安定な歩行が 
足元の赤い花を無情に踏み付けたのだった
散ったのは罪のない汚れなき花だった
もう誰も奴のことを素朴なロマンチストなどと呼ぶ者はいない
深夜の公園で毎夜催される恋人達の行きずりの情交も盗み見したことすらないのだろう
そこに付随する愛を賛否したことなどかつて一度もないのだろう
育ち盛りの子を持つ親たちの心の中でそんな不安の黒い花が咲き乱れる
もう我が子をあの公園で遊ばせることはないだろう
いくら以前のように口笛で子供達のために小鳥達の声を真似しても
花の命の尊さに疎ければ 誰も奴には親しくしない子供達も近寄らない
俺も食料を買うための小銭を奴にやるのを躊躇い始めた
高級レストランで実際に使用されたばかりの油で汚れた豪華な皿が
洗浄されることなく次々と食器棚に収められる
そんな様子を厨房で観察しながら 俺も小鳥のさえずりの口真似ね練習を試みた
それを本物だと聞き違えたあの盲人がそろそろやってくるだろう
これは残酷な罠だ そう非難したければすればいい
やがて俺の軽快な口笛が合図となり豪華な食器棚がついに倒れた
たまたまその場に通りがかった野蛮な盲人が棚の下敷きに
しばらく奴はそのまま放っておかれた
食器棚の下から聞こえる盲人の悪態の断片 闇の底から聞こえる呪いに耐え切れず
世界は絶叫と共に命令する 奴を苦痛から解放しろ
たちまち善意の人々が駆け寄り盲人を助ける瞬間を目撃した
そして俺は家から持参した洒落たビニール袋を頭からかぶってみる
もう何も見えない 盲人の姿さえ
盲人の黒々とした髭に覆われた口 悪臭と共にそこから吐き出される貧困や苦悩
盲人の黒々とした髭に覆われた口 悪臭と共にそこから吐き出される貧困や苦悩
盲人の黒々とした髭に覆われた口 悪臭と共にそこから吐き出される貧困や苦悩
それを洒落たビニール袋につめこむ それを洒落たビニール袋につめこむ
袋の上に無断でお前の住所を記入する

NIPPSの2002年のアルバムMIDORINOGOHONYUBI presents MIDORINOGOHONYUBI MUSIC/ONE FOOTより
中原昌也の詩を映画監督・脚本家の井土紀州が思い切り暗い声で朗読するよく分からない曲だった。
でも好きでいまだに聞くので。
でも、この曲詩の後ろに流れるトラックもNIPPS参加してないらしく、
なぜ彼のアルバムに入っていたのかいまいち謎。