耳の裏の墨 久貞砂道

耳の裏に刺青を入れた。
何しろ耳の裏というのは狭いので、
これが墨と言わなければ何だかよく分からない染みのような、痣の様なものに見えるらしい。
しかしこれは愛染明王なのだ。
耳の裏にあるため、普段自分で見ることはできないが一人でいる時分には
合わせ鏡を使い、これの存在を確認しわたしはうっとりする。
どんな嫌なことが会った日も、一日の終わりに彼を認識することによって、
熱い鉛がゆっくり溶けていくような快楽をもたらし、
不安は忘却の果てに消えてしまう。

嗚呼、これは、私の、私だけの大切な愛染明王