2007-02-04 耳の裏の墨 久貞砂道 短編 耳の裏に刺青を入れた。 何しろ耳の裏というのは狭いので、 これが墨と言わなければ何だかよく分からない染みのような、痣の様なものに見えるらしい。 しかしこれは愛染明王なのだ。 耳の裏にあるため、普段自分で見ることはできないが一人でいる時分には 合わせ鏡を使い、これの存在を確認しわたしはうっとりする。 どんな嫌なことが会った日も、一日の終わりに彼を認識することによって、 熱い鉛がゆっくり溶けていくような快楽をもたらし、 不安は忘却の果てに消えてしまう。嗚呼、これは、私の、私だけの大切な愛染明王。